北村友⼈氏、ジグザグのキャリアを考えることの重要性を語る

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  • 2014年6月16日     東京

    2014年6月6日(金)、第2回UNUカフェ「北村友人氏と語らう」が国連大学本部で開催されました。北村氏は、大学2年生の頃に、一人のバングラデシュ人男性との出会いからNGOの立ち上げに参加、現地の学校支援の活動を始めたことから「途上国の教育支援」がその後の研究テーマになりました。大学卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校に留学。同校大学院で教育学の博士号取得後、ユネスコでの勤務を経て、現在、東京大学大学院教育学研究科の准教授を務めています。

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    Photo: C Christophersen/UNU

    手放しに喜ばれない途上国の教育支援

    北村氏は、NGOの立ち上げに加わった学部生時代を振り返り、当時の学校の様子を写真で紹介しました。北村氏が仲間と一緒にノアカリ地方の農村部に作った夜間学校には、働きながら子どもたちが通い、職業訓練の機会も作られました。また、現地の教員たちが学校以外でアルバイトをしなくても済むように、夕方以降も昼間と同じ給与を払い、学校の運営は軌道に乗りました。

    ノアカリに作られた学校の様子

    ノアカリに作られた学校の様子。写真提供:北村友人氏

    しかし、「途上国の教育支援」を研究テーマにしたいと途上国教育を専門とする先生方に相談したところ、大きな転機が訪れます。アジア諸国の教育を研究していた先生方から、「貴様、アジアの国にまた土足で入るのか!」と大反対されたのです。戦時中の日本がアジアの国々に「皇国民教育」という名目の侵略行為を行ったことから、戦後の日本人研究者達はアジアの人々から不信感を抱かれ、現地調査などで多くの苦難を味わいました。そうした歴史を学びつつ、北村氏はアメリカへの留学を決意します。「途上国の教育支援を迷いながら続けてきた最後の世代だった」と、北村氏は手放しで他国の教育支援を喜べなかった時代背景について説明しました。

    ユネスコでの葛藤

    留学先で無事に博士号を取得した北村氏は、外務省JPO派遣制度で、ユネスコに派遣されます。働きぶりが認められ、二年間の派遣期間終了後も継続してユネスコで働く機会に恵まれ、途上国への基礎教育支援を推進する「万人のための教育(Education for All)」事務局に勤務しました。それと同時に、途上国の女性に対する職業訓練プログラムの開発などにも従事しました。このプロジェクトで、女性に向いているとされる伝統的な職業以外に、女性でも就くことができるようになるための職業教育支援をしようと考えた北村氏は、カンボジアにおいて現地の声を聴いた時に愕然としたと言います。ポルポト派による虐殺で、クメール・シルクの織り手が激減したカンボジアで、織り手のための職業訓練をユネスコに求めたいと思いながら、機織りは伝統的に女性の職業とされているために、プロジェクトの趣旨に反してしまうと考え、現地からは希望を伝えづらかったという事実を知ったためです。パリのユネスコ本部で考えた教育政策が、現地の声を抑えつけてしまったことに、自らの勉強不足を痛感した北村氏は、日本の大学で教えながらまた学び直すことを決めました。

    この日、進行を務めたUNU-IASの竹本和彦所長から、博士号を取得してユネスコに就職したにも関わらず、勉強不足を感じさせたのはどのような経験からだったのかと尋ねられると、北村氏は、この時のカンボジアの経験で人々の中に入らなければ価値がわからないことを知り、フィールドでの学びが不足していたと語りました。

    一点を知ることで典型を知る

    今まさに研究テーマを選ぼうとしている学生から「研究対象国を選ぶ時に必然的な出会いが必要なのか」と問いかけられた北村氏は、人類学者の鶴見良行氏の 「一点を知ることで典型を知る」という言葉を紹介して、対象国との出会いは偶然でも必然でも構わないが、大事なのはその後だと強調しました。バングラデシュの学生運動を博士論文のテーマに選んだ北村氏は、現地で学校を作った経験が、バングラデシュ国内の教育に関わる様々な社会制度に目を向けることにつながった例を挙げ、研究テーマを掘り下げることの重要性を話しました。

    若い時だからこそ許される失敗がある

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    また、JPO試験の受験を検討している学生から、国際機関で働く場合の年齢的なタイミングについて尋ねられると、国際機関の論理や政治は組織としては大きな変化はないため、若い時に国際機関の実態を知り、若い時だからこそ許される失敗を経験しながら、国際機関以外での将来も考慮に入れた「ジグザグのキャリア」を考えることが大事だと答えました。

    さらに、語学や統計学を若いうちに学ぶことの大事さを訴えた北村氏に対して、勉強から学べることとアルバイトなどの社会経験から学べることのどちらが国際機関での任務に役立つのかなど、今まさに様々な選択の岐路にある学生の立場から、数多くの質問が寄せられました。

    北村氏からの経験に即した丁寧な答えを受け、質問は止むことなく広がり、一人一人が国際社会に向けて前進するための熱意が、この日参加された方々の間に共有されました。

    北村氏のキャリアパス

    1994- バングラデシュ人男性との出会いから、バングラデシュに学校を作るNGOの立ち上げに参加
    1996- カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教育学大学院社会科学・比較教育学科に進学
    2000- 教育学博士号取得
    2000- 国連教育科学文化機関(UNESCO)パリ本部教育局に就職、万人のための教育(Education for All)事務局に勤務
    2003- 名古屋大学大学院国際開発研究科准教授
    2010- 上智大学総合人間学部教育学科准教授
    2013- 東京大学大学院教育学研究科准教授 近年はとくにカンボジアやラオスなどのインドシナ諸国を中心に現地の大学や教育省と共に調査研究に取り組んでいる。

    当日北村氏が使われたスライドをご提供頂きました。こちらからダウンロードしてご覧頂けます。