気候変動と移住が教育を受ける権利に与える影響を解明した書籍を発行

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  • 2023年5月2日

    国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)とユネスコが出版した新たな書籍『アジア太平洋地域統合報告書: 気候変動、移住、教育を受ける権利(英題:Asia-Pacific Regional Synthesis: Climate Change, Displacement and the Right to Education)』は、自然災害と気候変動の影響を最も受けている地域であるアジア太平洋地域において、気候変動とそれに伴う避難移住が教育を受ける権利に与える影響について分析しています。また、人権に基づくアプローチを適用することで、政策立案者が確実に教育を保護するための指針を提供します。

    本書は、バングラデシュ、インド、インドネシア、ツバル、ベトナムでの事例研究を紹介し、気候変動と関連する移住に対する共通の具体的な脆弱性を検証しています。そこでは、気候変動が学校の破壊や財産の損失といった直接的な脅威となるとともに、人々に合法的な居住権も「教育を受ける権利」も補償されない状態で国境を越えることを強いるような、間接的な形でも教育を脅かすことを明らかにしています。また、気候変動の影響に対してレジリエンス(回復力)が高く、気候移住中にあらゆる年齢層において学習の中断が最小限で済むような国家教育システムを構築するための、エビデンスに基づく提言を行っています。

    本書の他に、2021年にUNU-IASとユネスコが実施した調査に基づき、ラテンアメリカと南東ヨーロッパという異なる2つの気候変動「ホットスポット」に関する出版物も作成されています。これらの地域分析は、グローバルな政策提言に向けた報告書の作成に有用な情報を提供します。

    概要

    本書の主な内容は以下の通りです:

    • アジア太平洋地域は、さまざまな気候災害や極端な気象現象に直面しており、居住地の破壊という直接的、あるいは気候に起因する生計手段の喪失とそれに続く強制的な移住という間接的な、両方の影響が人々を移住へと追いやっています。
    • 本地域では(i)突発的な災害に伴う一時的な移住(ii)都市部への永住(iii)政府による計画的な移住(iv)国境を越えた移住(v)移住できない人々、という5つの移住パターンが確認されています。
    • 各移住パターンには、教育を受けるにあたってそれぞれ異なる障壁が存在します。経済的資源の不足は、すべてのパターンにおける重大要因であり、移住の最中および移住後における質の高い教育へのアクセスを妨げています。気候関連災害と避難移住による財産や資産の喪失から被災家庭が立ち直る、もしくは損失に対する支援が受られるまでには何年もかかることがあります。そのため、多くの家庭は、子どもの教育よりも経済的な安定を優先せざるを得ません。
    • 気候変動とそれに伴う移住は、既存の教育格差と教育を受けるための障壁を悪化させており、経済的に恵まれない人、少女や女性、農村地域、健康上のリスクがある人、障害者などに、より大きな悪影響を及ぼします。
    • 国内外を問わず移住を余儀なくされた人々は、行政上の障壁、記録書類の欠如や居住要件、言語の障壁によって質の高い教育への充分なアクセスを妨げられています。
    • この地域で調査対象となった5カ国の中で、気候変動によって移住した人々の教育を受ける権利を明確に保証する、包括的な国家レベルの政策を保持しているのは「災害と気候による国内移住の管理に関する国家戦略」を持つバングラデシュだけです。この戦略は、アジア太平洋地域における他の国々のモデルとなり得ます。