第15回アジア欧州財団クラスルーム・ネットワーク会合「ESDとAI:教師の役割と対応」の開催

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  • 2019年12月3日     東京

    UNU-IASは、アジア欧州財団 (ASEF)、上智大学、外務省、文部科学省と共に、11月25~29日の日程で、東京に於いて第15回アジア欧州財団クラスルーム・ネットワーク会合「ESDとAI:教師の役割と対応」を主催しました。この会合の開催に当たっては、国際協力機構(JICA)、開発教育協会(DEAR)、お茶の水女子大学附属高等学校、オープン大学の協力を得ています。

    本会合は、教師、政策立案者、EdTech(エドテック)専門家などが一堂に会し、講演、関連施設の視察、意見交換等のプログラムを通して、持続可能な開発のための教育(ESD)の推進について議論し、既に活用され始めているAI技術の教育界における可能性を探ることを目的とするもので、参加者には、約1,600人の応募者から選抜された51ヶ国からの57人の教育関係者が含まれました。

    プログラムの一環として11月29日に上智大学にて開催されたパネルディスカッション「AI時代における教師の役割およびAIとの関わり方についてのアジア・ヨーロッパ会議(Asia-Europe Plenary on Teachers’ Role and Readiness in the AI Era)」には、山口しのぶ UNU-IAS所長がパネリストとして登壇しました。

    はじめに、モデレーターのウェイン・ホルムズ オープン大学教育技術研究所准教授が、AIが存在感を増す現代においては教師の役割と責任が変容しているという問題提起を行い、これに応えてクリステル・リロ エストニア共和国教育省Eサービス副所長が、エストニアの教育界でのAIの最新活用事例を紹介しました。山口所長は、所定の課題解決のみを行うAIと対比的に、人間同様に知的な行動の学習が可能な「強いAI」に言及し、ではどのような倫理がそのアルゴリズムに付与されるべきなのか、AIは人間にとって平等の実現に役立つものとなるのかと問いかけました。そして、このようなAI技術の進歩と共に、教師の役割、指導方法、教科課程も変わらざるを得ないだろうと述べました。エーリン・ロウ シンガポール国立教育研究所教員養成部部長は、シンガポールでの教育界におけるロールモデルの存在および地域との関わりの重要性を指摘し、この点においてAIが人間の教師にとって代わることはできず、むしろAIは学生の学習意欲の促進や将来的に求められる職種および職能についての分析を行う際に、教師にとって有益なパートナーとなるだろうと結論しました。ステファン・ホール マルタカレッジ・オブ・アート・サイエンス・アンド・テクノロジー シニア・レクチャラーは、教師、学生共に、最新のAI技術に対応できるよう準備を整えること、また教育現場でAIをいかに有効に使うことができるかを常に模索することの重要性を強調しました。ゴードン・アラン ブリティッシュ・カウンシル 英語教育評価コンサルタントは、AIが教育機会の拡大に貢献し得ることを指摘したうえで、すべての人に平等にその機会が与えられるのか、AIによる成績評価が公正なものであるかについては留意すべきであると述べました。

    さらに、教育現場においてAIが重要性を増す状況に教師が今後どのように関わっていくべきかといった事例から、教育システムの中での人間とAIの関係性についての議論が深められました。リロ氏は、教育現場での一つの試みとして、教師、政策立案者、IT専門家などがプログラムを共同開発した、エストニアでの事例を紹介しました。山口所長は、クリティカル・シンキング、創造性、共感力といった非認知能力が効果的な学習に有効であるという調査結果をもとに、将来的にはこれらの能力が、AIを活用した教育においても組み込まれていく必要があると述べました。

    質疑応答では、獲得された知識に持続可能な価値を付加するというESDにおける教師の役割の重要性、人間とAIとを教育システムの中で調和させていく必要性についてなど、会場の参加者から投げかけられた様々な質問に登壇者が答え、活発な意見交換が行われました。

    さらにUNU-IAS は、当会議最後のプログラムとなるセッションとして、参加者に向けてUNU-IASの研究および教育活動を紹介するプレゼンテーションを行いました。UNU-IASの活動は、持続可能な社会、自然資本と生物多様性、地球環境の変化とレジリエンス、という3つの大きなテーマに沿って行われています。プレゼンテーションでは、フィリップ・ヴォーター(UNU-IASリサーチ・フェロー)が当研究所でのESD事業の概要を説明し、事業の主軸をなす以下2つのイニシアチブ、多様なステークホルダーの世界的ネットワークである「持続可能な開発のための教育に関する地域の拠点(RCE)」および高等教育機関のネットワークである「アジア太平洋環境大学院ネットワーク(ProSPER.Net)」を紹介しました。これをうけて参加者は、大学の社会的責任、地域でのESDを推進するための人的・資金的援助および枠組みの提供の必要性、ESDが政策転換にどのように貢献可能であるか、といった論点について議論を深めました。