東アジアにおける農業遺産の保全につなぐ、国際シンポジウム開催

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  • 2015年4月2日     東京

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    2015年3月3日、 国連大学にて、「農文化システムに関する国際シンポジウム:世界農業遺産の視点から考える」が開催されました。UNU-IASと東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の主催により開催されたこのシンポジウムには、約150名の参加者が出席しました。

    「農文化システム」とは、伝統的な農業・農法、農村文化、生物多様性、農村景観等が一体となったシステムを指し、近代化が進む日本においても、農文化システムが継承されている地域が多数存在します。こうした地域の一部は、国連食糧農業機関(FAO)によって「世界農業遺産」にも認定されています。農文化システムを世界農業遺産の視点から考える本シンポジウムには、中国、韓国からも専門家が招かれ、これまでの研究成果の発表と議論が行われました。

    日本の現状報告として、UNU-IASの竹本和彦所長は、国連大学がFAOに協力して日本や韓国の世界農業遺産を支援してきた経緯について述べ、武内和彦教授は、農文化システムの総合的な評価手法に関する研究成果が農林水産省により活用され、日本の新たな世界農業遺産の候補の審議に活かされたことを報告しました。さらに文化庁長官の青柳正規氏は、小規模であっても多様な作物を生産する多品種小規模農業の意義を強調しました。

    また、海外研究紹介として、中国と韓国における現状も発表されました。中国の農業文化遺産システムが国家レベルで保全されている現状について、ミン・チンウェン中国科学院地理科学・資源研究所教授から報告がなされると、韓国からは、農業と漁業の両方にまたがる農漁業遺産システムの発展が目指されているとして、ユン・ウォングン韓国協成大学校教授から報告されました。韓国ではさらに、 農業や農村資源保全のために、国家重要農業遺産制度の導入が目指されていると、キム・サンブン韓国国立農業科学院研究官が報告のなかで述べました。

    また最近の国内研究紹介として、 北海道大学の森本淳子准教授による、放棄農地をグリーンインフラとして活用し新たな価値を創出する研究や、長崎大学の吉田謙太郎教授による、農業の生態系サービスを主流化する方法について報告がなされました。

    最後に、 農文化システムを世界農業遺産という切り口で考えながら、日本・中国・韓国による東アジアにおける議論を深めていくことが重要であると、 東アジア農業遺産学会日本代表の中村浩二教授が述べ、シンポジウムが閉会されました。

    本シンポジウムで議論された内容は、FAOの世界農業遺産に関する国際的な議論とともに東アジアにおける農業遺産の学術研究の発展のために活用されます。

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    本国際シンポジウムは、農林水産省農林水産政策研究所、地球環境パートナーシッププラザ、(一財)農村開発企画委員会、九州大学、島根大学疾病予知予防プロジェクトセンターの共催により実施され、 農林水産省農林水産政策科学研究委託事業(平成24年度~26年度)日本における独創的な農文化システムの総合的な評価手法の開発に関する研究(研究代表:武内和彦・東京大学)の研究の一環として行われました。