第1回グローバル・キャリア・ダイアローグ:有馬利男氏を迎えて

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  • 2022年8月15日


    2022年7月15日、専門家の経験や国際的キャリア形成についての知見を共有するシリーズ「グローバル・キャリア・ダイアローグ」がスタートし、国連大学の会場にて学生を中心とした45名が対面形式で参加しました。初回となる今回は、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの有馬利男代表理事をお招きして、豊富なキャリア経験とCSR(企業の社会的責任)マネジメントに関する考えを伺いました。

    有馬氏は、「Purpose of working and CSR management」と題した講演の中でまず、自身の就職に大きな影響を与えた出来事として、国際基督教大学在学時の恩師である聖書学の神田盾夫教授に、将来何をやりたいのか尋ねられ「総合商社に入り海外に行って豊かな生活を送りたいです。」と答えたところ「それはケチな夢ですね。」と言われたことが胸に刺さったエピソードを紹介しました。そして、それ以降「ケチでない夢」とは何かを問い続け、それが働くことの意味を模索することにつながった、と述べました。その後、ゼロックス社創業者のジョセフ・ウィルソン氏による「ビジネスを通して世界の人々の相互理解を促進する」という経営哲学に出会い、これこそが「ケチでない夢」だ、と感じて1967年、成長力のある若い会社であった富士ゼロックスに入社します。そこで、人生の師と仰ぐ小林陽太郎元社長から「利益を上げるだけではなく企業活動そのものが社会に貢献しなければならない」という経営哲学を学んだことが自身の実践の基礎になった、と語りました。有馬氏は、神田教授・ウィルソン氏・小林氏という3人の素晴らしいリーダーとの出会いに恵まれたことは、人生において大変な幸運だったと話しました。

    「企業品質コンセプト」がCSRの理念となる

    1976年に小林陽太郎氏が社長に就任。1980年、総合企画課長に任命された有馬氏は、小林氏から学んだ、顧客・従業員・パートナー・地域・地球・社会など、すべてのステークホルダーに対するコミットメントが企業の品質に反映されるという考え方を「企業品質コンセプト」として掲げました。当時は社内での支持が得られず方針変更を余儀なくされることとなりましたが、この時から「企業品質コンセプト」は有馬氏にとってCSRの理念となりました。そして、20年後に再挑戦の機会が訪れます。

    1995年から、中古複写機や使用済みのカートリッジを回収しリサイクルするという、循環型生産システムに基づいたリサイクルビジネスが始動しました。コストと手間がかかるため初期には大きな反発がありましたが、今後リサイクルに対するニーズはますます高まり近い将来社会の中核になるとの予測のもと、目的設定を明確にし、8年間で多くの新しいアイデア、技術、デザインを生み出し200件の特許を取得しました。これによって業績は黒字に転じ、顧客からも高い信頼を得てCO2や資源の削減に結びつけることができました。

    1996年に米国シリコンバレーにあるゼロックスインターナショナル・パートナーズ(XIP)社長として赴任し、仕事も軌道に乗った2002年頃、小林氏から帰国依頼を受けて富士ゼロックスの社長に就任しました。2006年までに勝利しようという意味のV06というタスクフォースを作り、経営改革に奔走し、その際、すべてのステークホルダーの期待や要求に応える経営を目指すため、主流の事業に社会性や人への配慮、経済性を統合的に盛り込む「企業品質コンセプト」を改めて全社で確認しました。1980年当時には社員の同意を得られなかったコンセプトが、時機を得て有馬氏の経営哲学となりました。有馬氏は、社会的、人間的、経済的なニーズを統合した正しい目的を追求することは、人々をより創造的にし、モチベーションを高め、事業を成長させる原動力となると述べました。そして「企業品質コンセプト」は、今日のESGにも応用できるコンセプトであることを強調しました。

    若者へのアドバイス

    講演後の質疑応答セッションでは、参加者からの質問に一つ一つに丁寧に答えてくださいました。サステナビリティとビジネスの関係についての質問に対して有馬氏は「サステナビリティがビジネスになる」事例として、ある会社にオフィスマシンのサブスクリプションサービスを提供する際、担当者がドキュメントフローを調査・分析し、契約を1000台から800台まで減らして効率化すると同時に新しい需要を取り込んだことを紹介しました。また、欧米の企業を見ると、ESGランキングが高い企業は業績が良い傾向にあり、日本企業も今後同じような傾向を示すだろうと述べました。

    苦しい時どうやって克服したか、という問いかけに対しては、働く環境を変えることが有効であると説明しました。そして、総合企画部にいた頃、商品開発が上手くゆかず、営業部門への異動を申し出て新天地で新たなエネルギーを得た後、総合企画部長として戻ってきた体験を紹介しました。

    また、国際機関で働きたいという大学生がアドバイスを求めると、本質的なことに興味を持ち、サステナビリティの基礎知識に関する書籍を多く読むことを勧めました。そして、国連グローバル・コンパクトについては、国連と民間企業が共に持続可能な経済成長に取り組みながら、世界の健全な発展を進めるイニシアチブであると説明し、その取り組みについてもっと知ってもらいたい、と述べて本セッションを締めくくりました。