国連HLPFサイドイベントにてランドスケープ・アプローチ/SATOYAMAイニシアティブとCOVID-19からの復興を議論

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  • 2020年7月22日     ニューヨーク

    2020年7月16日、UNU-IASは、国連持続可能な開発目標に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)において、「自然共生社会の実現に向けたSATOYAMAイニシアティブ:コミュニティ・ランドスケープ・シースケープを考慮した包括的なアプローチ」と題したサイドイベントを開催しました。SATOYAMAイニシアティブは、UNU-IASと日本環境省が提唱した世界的な取組で、ランドスケープおよびシースケープの再生と持続可能な管理を通じて、自然との共生社会の実現を目指しています。本イベントでは、このSATOYAMAイニシアティブと、生物多様性の保全および人間の福利向上を目標とするランドスケープ・アプローチに焦点が当てられました。さらに、より持続可能な社会の実現に向け、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的大流行からの復興に、ランドスケープ・アプローチがどの様に貢献できるかについても議論されました。

    本イベントは、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)、日本環境省、コスタリカ環境エネルギー省、生物多様性条約(CBD)事務局、国連開発計画(UNDP)地球環境基金小規模無償プログラム(GEF-SGP)、UNU-IASの共催によりオンラインで開催されました。

    本イベントの司会・進行は、渡辺陽子国連開発計画地球環境ファシリティ小規模無償プログラム(UNDP GEF-SGP)グローバル・マネージャー が担当しました。渡辺氏はまず、UNDPによるSATOYAMAイニシアティブ関連事業を紹介しました。UNDPは、世界各国でランドスケープ・アプローチを推進する「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム」(Community Development and Knowledge Management for the Satoyama Initiative:COMDEKS)を実施しており、先般、第三期プログラムが開始されました。

    アヒム・シュタイナー国連開発計画(UNDP)総裁は、開会挨拶の中で、SATOYAMAイニシアティブおよびそのパートナーシップであるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)の重要性を述べました。また、COVID-19に関連して、生息環境の分断と環境からの脅威の拡大により、人獣共通感染症が広がっているため、今後、人間の福利と環境の持続可能性のつながりを軸に前進していく必要があると指摘しました。

    武内和彦地球環境戦略研究研究機関(IGES)理事長・UNU-IAS客員教授は、基調講演において、SATOYAMAイニシアティブの背景およびコンセプトを説明しました。さらに、ランドスケープ・アプローチを実施するためのシードファンド(新規事業開始のための小規模資金支援)である「SATOYAMA保全支援メカニズム(SDM)」や、近年提唱された「地域循環共生圏」についても解説しました。COVID-19からの復興に関しては、人間社会と自然との不調和な関係が今の世界の状況を引き起こしていることを指摘し、今後、人間社会と自然との間のバッファー(緩衝部分)を維持し、共生関係を築いていくべきであると述べました。

    小泉進次郎日本国環境大臣はビデオメッセージを送り、日本の伝統的なランドスケープである里山を持続可能な資源管理のモデルとして、ランドスケープ・アプローチを国内外に推進している日本政府の取り組みを紹介しました。また、COVID-19後のより持続可能な社会の構築に向けた日本での取り組みについても触れ、将来的にSATOYAMAイニシアティブを継続して支援していきたいとの力強いメッセージを発信しました。

    カルロス・マニュエル・ロドリゲスコスタリカ環境エネルギー大臣は、物や製品の過剰な増産が、モノに対する人間のニーズと健全な環境の必要性とのバランスを崩していると指摘しました。SATOYAMAイニシアティブは、人間社会と自然との健全な関係の再構築に寄与することから、COVID-19やその他の課題への「予防薬」となり得るとし、コスタリカにおけるGEF-SGPの活動の重要性にも言及しました。

    エリザベス・マルマ・ムレマ生物多様性条約事務局長は、世界で起きている様々な課題の核に生物多様性の問題があることに触れ、「従来どおり、これまでどおり」ではなく、今後は、特に深刻な貧困の中で暮らす人びとに生計を立てる手段を提供しながら自然を保全するという、新たなモデルに移行する必要があると指摘しました。また、SATOYAMAイニシアティブは「新たな日常」を提案できる可能性を秘めており、生物多様性条約の目的の一つである、生物多様性の持続可能な利用の達成に貢献できるとの期待を寄せました。

    山口しのぶUNU-IAS所長は、UNU-IASがSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(International Partnership for the Satoyama Initiative: IPSI)事務局として行っている活動を説明しました。また、IPSIは持続可能なランドスケープ管理に向けて様々な組織が参加する国際プラットフォームであり、多国間、組織間の協力が重要であることを指摘しました。さらに、2030年に向けて持続可能な開発および持続可能な環境の国際目標を達成するためには、人々が迅速な行動をとる必要があると強調しました。

    各登壇者による発表後は、質疑応答の時間が設けられました。参加者からは、農産物の生産を集約・増強するという世界的に見られる傾向について質問が寄せられ、それに対し武内氏は、持続可能な生産を主流化する必要があると回答しました。シュタイナー氏は、消費者は何を買うか、使うか、常に様々な決断をしており、人々は持続可能性に資する「よい決断」を行う必要があること、また、SATOYAMAイニシアティブは人々によい決断のための動機やひらめきを与え得ることを強調しました。山口氏は、地域資源を動員する重要性を指摘し、SATOYAMAイニシアティブに参画するための入り口として、ぜひIPSI事務局に連絡をとって欲しいと呼びかけました。

    本円卓会議の録画映像はこちらからご視聴いただけます。

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    SATOYAMAイニシアティブについて:

    SDGの達成に向けてコミュニティでの取組を加速化させる必要があります。SATOYAMAイニシアティブは、里山·里海のようにコミュニティにおいて自然と人間が共生する社会の保全を図る地球規模の取組です。UNU-IASが事務局を務めるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)には、250以上の団体が参加し、その内訳は政府や学術研究機関、民間企業など多岐にわたります