2023年10月23日
2023年10月21日、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は、上智大学国連Weeksの一環として、ProSPER.Netサステイナビリティフォーラムを共催しました。本イベントでは、「公正性と包摂性をめぐる教育の新たな挑戦」をテーマに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による特に社会的弱者への包摂的かつ公正な質の高い教育への影響と、持続可能性と包摂性の実現に向けた高等教育機関(HEIs )の取り組みについて議論しました。
UNU-IAS小西美紀プログラム・コーディネーターがセッションの司会を務めました。まず、上智大学グローバル化推進担当 森下哲朗副学長は、SDG4(質の高い教育)の達成には国を越えた多くの人々の協力が必要であると強調しました。また、アジア工科大学教授、ProSPER.Net代表 ディーパック・シャルマ氏は、パンデミックによって、教育システムに組み込まれた不平等や縦割りが疑問視されるようになったことを取り上げました。
UNU-IAS山口しのぶ所長は、レジリエントな(回復力がある)教育システムを構築するために、パンデミックの影響を検証することの重要性について説明しました。パンデミックを経て教育システムにおける多くの課題が見えるようになった一方、学校、家庭、地域社会の連携、テクノロジーへの理解と利用の拡大および学生の心身の健康への関心の高まりなど正の影響ももたらされています。環境省大臣官房総合政策課環境教育推進室 東岡礼治 室長は、専門家の参画と研究に基づく知識によって、公正性と包摂性を促進することの重要性を強調しました。
ユネスコバンコク多部門地域事務局教育革新・能力開発部門 リビン・ワン課長は、基調講演において、公正性と包摂性が高等教育を再構築する極めて重要なテーマであることを強調しました。ワン課長は、社会的に弱い立場にある学生の採用を促進する政策、あらゆる学問分野における公正性と包摂性の評価および包括的な学生支援サービスなど多くの公正性と包摂性に関する提言を紹介しました。
上智大学総合人間科学部 杉村美紀氏の司会によるパネルディスカッションでは、高等教育へのアクセス、質および公平性の向上を目指す最近の動向についての見識が共有されました。文部科学省高等教育局国際担当 小林洋介参事官は、留学生やウクライナからの避難者に対する支援プログラムを含む、公正性と包摂性を中心とした日本の高等教育政策を説明しました。また、2023年5月に開催されたG7教育大臣会合での富山・金沢宣言を取り上げ、国際協力に向けた新たなアイデアを構築するために、国際的な流動性を高めるように呼びかけました。
チュラロンコン大学教育学部アタポル・アヌンタボラサクン氏は、遠隔授業のための新しい教育法や学生のニーズに合わせた授業や活動の再設計など、タイの大学における包摂性の取り組みについて共有しました。フィリピン大学ディリマン校研究開発担当 カール・オドゥリオ副学長は、パンデミック時の同大学の経験と、その結果もたらされたブレンド型、ハイブリッド型およびバーチャル型学習の導入等の変化について発表しました。
宮城教育大学教育学部 市瀬智紀氏は、移民の背景を持つ学生に焦点を当て、多文化、多言語環境で教えるために必要な能力や経済協力開発機構(OECD)で避難民の教育的統合を促進するために用いられている統合モデルや実践について説明しました。上智大学大学院人間科学研究科 ブレンソン・アンドレス氏は、学生の視点から、パンデミックが彼らの学習能力、コンピテンスおよび幸福にどのような影響を与えたかを共有しました。正の 影響としては、個人に合わせた学習習慣の確立、オンライン授業の利便性およびアクセスの良さなどを挙げました。一方、負の影響として、Zoom疲れ、学習意欲の低下および社会的交流の減少などを説明しました。高等教育機関は、様々な背景を持つ学生やパンデミックの影響に対し、学業免除、メンタルヘルス・プログラム、交流イベント、経済的救済など多様な取り組みを行い対応しています。今後高等教育機関が取り組む事項については、留学生への一層の配慮、対話の場、メンタルヘルス・プログラムの認知度向上などが提言されました。
アジア工科大学教授、ProSPER.Net代表 ディーパック・シャルマ氏は、変革の主要な推進力としての包摂性公正性および公平性を強調し、協働するスキルと技術的適応の重要性を呼びかけました。
閉会の挨拶で、UNU-IASのジョンウィー・パクアカデミック・プログラム・オフィサーは、本セッショ ンから得た3つの重要な学びを共有しました。(1)教育における不平等と排除は依然として存在し、COVID-19 危機によって悪化している(2)教育セクターの主要な担い手は、教育の公正性と包摂性の達成に向けた取り組みを進めており、より重点的な介入を行っている(3)教育の公正性と包摂性の達成は、一つのセクターだけでは難しく、高等教育機関、国連機関、民間セクターおよび政府間の協力を通じて達成が可能になる。
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