持続可能な開発の促進に向け、水と経済の連関を検証する報告書を発表

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  • 2022年8月30日     東京

    国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は、水消費と水質がアジアの経済と社会に及ぼす影響を検証し、水質汚染の管理に向けた政策の指針を提供する新しい報告書を発表しました。『「持続可能な開発のための水」サマリー・ケースブック~持続可能な開発のための水の価値を認識する~(英題:Water for Sustainable Development Summary Casebook: Recognising the Value of Water for Sustainable Development )』と題した本冊子は、IASがインド、インドネシア、ネパール、タイで実施した研究に基づき、産業連関分析を用いて、各セクターの経済活動、水消費、汚濁負荷の相互関連的な依存関係の包括的な全体像を示しています。

    本冊子では、アジアの環境政策・経済政策の改善を目指してIASが実施している「持続可能な開発のための水」プロジェクトの研究成果が、政策立案者、水の実務者、研究者向けにまとめられており、サローズ・チャパガイ、ギータ・モハン、福士謙介 によって執筆されました。

    著者の一人である、国連大学物質フラックス・資源統合管理研究所(UNU-FLORES)のサローズ・チャパガイ アソシエート・プログラム・オフィサーは「世界中で経済成長に伴う水需要が高まっている中、本ケースブックは限りある水資源を管理する上で有効なツールである。従来的な施策の紹介に加え、アジアの文脈における水の分配と汚染対策戦略に対して新たなアプローチを提供している」と述べています。

    結論と政策への示唆

    本報告書の主たる結論、および導き出された政策への示唆は以下の通りです。

    • 全ての経済部門の中で最も水を消費するのは農業である。水利用効率の改善に向けた解決策には、節水農業、浸食のコントロール、地滑りの管理システムの導入、洪水や排水管漏水の防止・軽減、節水技術の適応などが挙げられる。
    • 観光および製造業においては、地下水資源を過剰に消費する産業に対し従量給水制や課金制・二重課金制などの実施が考えられる。また、小規模貯水池の開発が、河川や地下水を含む水資源の負担軽減のための代替案になり得る。
    • 水に関する利害関係者は、定期的に会合して水需要と水供給を見直す場を設定し、創意工夫や適応されている節水技術の共有と普及に努めることが求められる。
    • 国家・地域・地方レベルの水収支表と環境産業連関表(EEIO)モデルの分析は、経済活動における水資源の利用分布を理解し水利用者間の社会的対立を防止する上で、政策立案者にとって有用なツールとなる。
    • 畜産廃棄物の取り扱いと処理は、未だあまり普及していない。動物性廃棄物をバイオガスなど価値のある製品へと変換する政策の導入は、資源の再生と水質汚染抑制に最も有効である。
    • 水質汚染に最も寄与している経済部門は製造業である。直接的な水質管理のためには、よりクリーンな生産と排水処理の実施が求められる。同様に、ホテルや飲食などのサービス部門から出る廃棄物についても、排水処理施設のキャパシティの拡大や排水基準の遵守を通して処理を改善することができるだろう。
    • UNU-IASの研究では、経済活動の中において各部門の生産がいかに水質汚染に寄与するかを分析することで、水質汚染を制御するための政策的方向性を提供している。水質汚染の抑制には、汚染度が高い部門の需要を管理することが有効と考えられる。
    • 従来的なアプローチに加え、水質汚染を供給サイド(間接的な汚染)から管理・抑制する政策も優先的に検討されるべきである。本報告書は、サービス部門に対して環境税を課税し、それを畜産業への高額な投資として相殺することで水質汚染の改善を試みることに関する確固とした論拠を提供している。

    本冊子は(英語)、UNUコレクションからダウンロードいただけます。