2015年5月20日 テグ
国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は第7回世界水フォーラム2015のサイドイベントとして、「途上国での都市水環境の向上」に関するイベントを韓国のテグ(大邱)市にて開催しました。イベントでは、アジアの途上国における都市と水環境の現状把握や、課題とその改善策について議論が行われました。
はじめに、タマサート大学(タイ)のチョンラック・ポルプラサート教授が、不十分な排水処理は、環境問題を引き起こす可能性があるだけではなく、持続性が問われる時代において、人間としての尊厳への侮辱につながると主張しました。人口増加や都市部の開発によって水需要が増える状況下、とくに開発途上国では排水処理システムが十分ではありません。水問題の変革のためには、知識、技術、資金、意識の4つの動力が必要であると述べ、途上国の政策において水問題を最優先事項にする重要性を強調しました。
続くUNU-IASリサーチフェローのミシュラ・ビナヤ・クマール氏は、持続可能な水と都市のためのイニシアチブ(WUI)の概要を共有しました。都市における水環境の悪化の原因や、水質悪化がもたらす経済や健康、生態系、宗教や文化活動へ与える悪影響を紹介しました。また、課題解決のための問題認識の向上や、科学的な政策ツールの必要性と、それらを開発目標に位置づけることの重要性を指摘し、WUIプロジェクトの目的、重点地域、研究活動や期待される成果を述べました。
都市開発の専門家のリリア・ラフロレス氏は、マニラ首都圏(フィリピン)における地表水のほとんどが、水質検査に合格しないか、水質評価の結果が悪い現状であると報告しました。水質汚染の改善に向けては、水辺に広がる無許可で建設された居住地の存在、廃棄物管理の実施の遅れ、不適当で不十分な下水や衛生管理、地下水評価の欠如、複数の機関が絡み合う行政などの課題があると述べました。
環境サービス ネパール社の環境担当者であるニランジャン・シュレスタ氏は、カトマンズ渓谷の主要な河川の1つであるバグマティ川の汚染の原因は、未処理汚水の直接排水や、下水と雨水の合流方式が考えられると述べました。ネパールの水質改善活動や取り組みを紹介するとともに、水質汚染が健康や生態系へ及ぼす影響を指摘しました。
続くインドネシア科学院の研究員のアピップ氏は、ジャカルタにおける主な水問題を環境と水資源の観点から調査し、多くの人々はきれいな飲料水と下水道システムへのアクセスが不十分であると報告しました。ジャカルタが今後持続的で健全な都市になるためには、効率的で環境に優しい下水道処理や、水処理、廃棄物処理システムを導入する必要があると指摘しました。
ベトナム水文気象環境研究所の研究員のファン・ティ・トゥイ・ホアン氏は、ハノイにおける産業化や都市化、医療のニーズが水への需要を増加させると同時に、排水増加にもつながったと述べました。また、病院への排水処理システムの導入や都市部への最新の排水処理システムの導入、コミュニティーの意識向上など、いくつかの解決策を提言しました。
パネルディスカッションでは、都市の持続可能性、都市開発、都市の将来における水の価値について議論が行われました。パネリストは、河川災害や都市の水汚染の経験から人の健康には清浄な水が重要であることや、水質改善は都市の価値をも向上させることを指摘しました。また、浄水の役割に経済性、社会性の視点を加えることで清浄な水の価値が更に向上すると示唆しました。次回の世界水フォーラムにてWUIイニシアチブの成果を報告したいとの提案とともに、ディスカッションは締めくくられました。
それぞれの発表者のワーキングペーパーは以下のリンクからダウンロードできます。
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本イベントは、持続可能な水と都市のためのイニシアチブ(WUI)プロジェクト活動の一環として開催されました。持続可能な水と都市のためのイニシアチブは途上国における持続可能な開発のための環境政策の策定・実施を支援するための政策形成ツールと情報プラットフォームの提供を目指しています。