「2020年世界湿地の日」記念シンポジウム開催

,

ニュース
  • 2020年2月6日

    ラムサール条約事務局は、1971年2月2日にラムサール条約が採択されたことを記念して、毎年2月2日を「世界湿地の日(WORLD WETLANDS DAY)」と定めています。

    これを記念して、UNU-IASは、日本国際湿地保全連合(WIJ)地球環境パートナーシッププラザ(GEOCとともに、2020年2月1日に「2020年世界湿地の日記念シンポジウム」を開催しました。2020年湿地の日の世界共通テーマである「湿地と生物多様性」に焦点を当て、専門家や実践者を招いて生物多様性条約COP10以降の生物多様性の取り組みの成果や今後の課題について議論を行いました。

    まず開会挨拶として、八木哲也 環境大臣政務官が、減少を続ける湿地の保全に向けては、次の世代に湿地の重要性をしっかり伝えることと、皆が保全への一歩を踏み出すことが大切であると述べました。

    続いて登壇した名執芳博 日本国際湿地保全連合会長は、生物多様性を守るために湿地の保全が重要であることを訴える Martha Rojas Urrego ラムサール条約事務局長のビデオメッセージを上映しました。その上で、2020年が今後10年の生物多様性の国際目標を定める重要な節目であることから、本年のテーマに生物多様性が選ばれたのだと述べました。

    西麻衣子UNU-IASリサーチフェローは、SATOYAMAイニシアティブの愛知目標とSDGsへの貢献について解説を行いました。また、SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)メンバーの取り組みとして、生物多様性の保全と共に人々の暮らしの向上を図るバングラデシュでの事例と、エクアドルの参加型のワークショップを通じて住民が主体的に保全に関わっている事例を紹介しました。今後は、国際交渉での貢献を通して、SATOYAMAイニシアティブが推進してきたランドスケープ・アプローチが、生物多様性の新たな枠組みの中で重要性を持って位置付けられることを目指し、また世界農業遺産(GIAHS)などとの協調・連携を考慮しながらの活動を検討していると話しました。

     

    続いて国内での取り組みから4つの事例が発表されました。
    日本国際湿地保全連合の青木美鈴氏は、沿岸湿地の生物モニタリングの結果を紹介し、そのデータの重要性を強調しました。その理由として、継続したモニタリングにより得られたデータが、今後多くの人々に利活用され、結果的に湿地保全施策の策定にも貢献し得るということが挙げられました。

    ラムサール・ネットワーク日本の呉地正行氏は、「田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト」の活動を紹介しました。この活動は、農地でありながら湿地の機能をも併せ持つ水田において、生物多様性の向上を図るものです。呉池氏は、生物多様性の保全および持続可能な利用を社会経済活動の中に組み込むことを志向する行動が、本活動を通して可視化できた点を、活動成果として挙げました。また、今後はSDGsや生物多様性条約の新戦略を組み込んだ新10年プロジェクトを立ち上げ、国内外での普及および基準化をめざしたいと話しました。

    続いて登壇した豊岡市コウノトリ共生部コウノトリ共生課の宮垣均氏は、約65年前にコウノトリの保護から始まった取り組みが、年月をかけて、農業、湿地再生、人材育成、環境経済など多くの分野に広がっている状況を解説しました。そして、今後コウノトリが様々な地域へ飛来することを通して、野生動物保護に限定しない形で他の地域とつながり、コウノトリとの共生への取り組みをさらに進めてゆきたいと述べました。

    生物多様性びわ湖ネットワークの三好順子氏は、滋賀県に事業所を置く企業が中心となり、トンボをテーマに生物多様性保全を目指す「トンボ100大作戦」の取り組みを紹介しました。その成果として、企業が連携し保全や調査を実施することによって、企業、専門家、自治体、地域へとネットワークが広がったことを挙げました。さらに、今後は滋賀県全体に活動の輪を広げ、現場で得た経験と課題を共有し、生物多様性の保全につなげたいと話しました。

    河野博 東京海洋大学教授は、東京湾に残された湿地である新浜湖で行った、10年間にわたる魚類の生息変化の調査結果を報告しました。魚類の種や数の変化から、水質の改善が進んでいること、1970年代と2010年代とを比較した際の海水温上昇、それにともなってより暖かい地域に棲んでいた魚が増加していること、地形の変化によって環境が多様化し、湾奥にも魚が増加していること、等の分析が示されました。最後に、河野氏が共同代表を務める東京海洋大学江戸前ESD協議会の活動について、研究者、学生、地域の人々といった多様な主体が知の協働を行い、「江戸前の海」に関する学びの場を創設し、地域に根差した活動を続けるための人材育成を続けているという詳細を紹介しました。

     

    その後の質疑応答は、会場から寄せられた質問に各登壇者が答える形で行われました。多様な主体との協働や地域ごとの比較研究を進めることの必要性、地域ごとの事情を理解し、それに合った形で活動していくことの重要性、地元住民の理解と参加を促す方法の模索、生物多様性の重要性を国内外に広く周知し、政府レベルへの働きかけも行うことで政策整備を促すことなど、様々な観点から、今後の課題を考える上での論点がさらに深められました。