世界高等教育会議ラウンドテーブル:高等教育は、パリ協定実施に必要な能力をいかに構築できるか

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  • 2022年5月25日     バルセロナ

    2022年5月20日、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は、ユネスコ世界高等教育会議2022(WHEC2022)においてラウンドテーブル・セッションを開催し、どのように若手リーダーを育成して気候行動のための能力を開発していくか議論しました。スペイン・バルセロナのWHEC2022の会場とオンラインで開催した本セッションでは、UNU-IASの大学院学位プログラムに「パリ協定専攻」を創設する取り組みの進展を共有し、気温上昇を2度より十分低く保つとともに1.5度に抑える努力を追求するという国際的な誓約である「パリ協定」を実現していくために必要な知識とスキルについて議論を行いました。

    開会にあたり、山口しのぶ所長は、カーボンニュートラルに向けた持続可能な変革を効果的に実現していくためには、体系的で長期的な視点での教育が必要であるとし、UNU-IASのパリ協定専攻では、科学と政策とをつなぎ気候行動への変革を進める重要なスキルを育成することになると述べました。

    UNU-IASの竹本明生プログラム・ヘッドは、温室効果ガス排出量の算定・報告・検証(MRV)やデータの収集・調整に関する組織的な能力など、パリ協定の実施に必要な能力について概観するとともに、UNU-IASのパリ協定専攻の目的、対象者、構成などの概要を説明しました。

    続いて、ユネスコ持続可能な開発のための教育部門、プログラム・スペシャリストであるウォンジュン・ビョン氏によるプレゼンテーションでは、持続可能な開発のための教育(ESD)や気候変動教育に関するユネスコの活動や教材が紹介されました。森林総合研究所、生物多様性・気候変動研究拠点の森田香菜子主任研究員は、気候変動に関するガバナンスの改善に向けた優先度の高い研究について明らかにしました。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の佐藤淳主任研究員は、先進国および開発途上国の経験からの教訓を示しつつ、透明性およびMRVのために必要な能力について説明しました。フランス開発庁、職業教育訓練および高等教育部門のローラント・コルテーゼ副部長は、教育の全段階にわたって気候変動問題を組み込み、問題解決に向けた社会の公正な移行を確保する、総体的なアプローチの必要性を強調しました。

    その後、UNU-IASの フィリップ・ヴォーターリサーチ・コンサルタントの司会により、パリ協定の実施に必要な能力についてパネルディスカッションが行われました。登壇者は、職業教育や生涯学習のほか、民間部門との対話、地域の状況や労働市場を反映した統合的なアプローチの必要性を強調しました。また、気候行動には、学習の認知・行動・社会的・感情的観点のバランスをとることや、システム思考が必要であると述べられました。さらに、気候変動対策や、社会システムの変革に対する社会的な受容をいかに醸成すべきかを理解するために、社会科学が重要な役割を果たすという指摘がなされました。

    パリ協定専攻を実施するためのパートナーシップについては、UNU-IASは、学生が気候変動に関する現場の課題を理解できるよう、市民社会や地方自治体を含む多様な組織と協働すべきであるとの助言が寄せられました。開発を担当する政府機関は、専門的知見を提供するとともに、パリ協定専攻で学ぶべき潜在的学習者の特定を行うことも可能ではないか、との示唆もありました。また、このようなパートナーシップは、異なる分野や状況にある人々と協働する機会を学生に与え、コミュニケーションスキルやその他の重要な能力の育成に役立つだろう、と述べられました。

    最後に行われた聴講者との議論では、専門的なプログラムの実施に加え、気候変動を他のコースやカリキュラムに組み込んでいく必要性についても強調されました。