「能登の里海」公開セミナーで貝の生態系と漁業のつながりを発信

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  • 2015年12月14日

    Photo: Tomohiko Kawamura

    Photo: Tomohiko Kawamura

    2015年12月12日(土)、石川県珠洲市(すずし)にて、第3回「能登の里海」シリーズ講座:海の底力!里海を支える貝類が開催されました。本講座では、 珠洲の里海に棲むアワビとサザエなどの貝類の生態系とその役割について話し合われ、漁業関係者・県内外の専門家・行政職員など約60名が出席しました。

    珠洲の里海では古くから多様な漁業が行われ、波が荒く岩が多くある海岸がアワビやサザエの絶好の生息地となり、現在も地元漁師にとって貝類の漁は重要な生業になっています。

    しかし、近年アワビの漁獲量が減少しており、アワビの稚貝である種苗を放流しても回復が見られない状況です。この要因として、 東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター長の河村知彦教授は、気候変動による冬場の水温の低下や、河川流域の工事による海水への土砂の流れ込みのほか、放流後に数年でアワビが漁獲されて絶対的な産卵量が減ってしまうことや、アワビのオスとメスの距離が離されると受精率が低下してしまうことを指摘しました。河村教授は、「適切な漁獲制限と種苗放流を活用しながら、アワビの生態特性に基づいた管理が必要だ」と述べました。

    これに関連して、漁業の専門家である前野美弥次氏は、漁業の三つの種類について説明しました。 一定の水面において排他的に特定の漁業を営む権利を 申請して免許が交付される「漁業権漁業」、農林水産大臣や知事の許可を必要とする「許可漁業」、こうした免許や許可を必要としない「自由漁業」や、海のレジャーを楽しむ人が魚介藻類をとる「遊漁」があります。前野氏は、「アワビの場合は禁漁期間を設け、10cmのもの以下のものを獲ってはいけないというルールを決めて、漁業者は海の資源の管理を行っている」と説明しました。また、「珠洲市の里海には豊富な貝類が生息しており、一般の人でも漁業権のルールをチェックして頂ければ、 あまり知られていない貝類を楽しむことができる」と加えました。

    さらに、珠洲市でゲストハウスを経営している坂本信子氏は、漁協では期間を決めてサザエを獲るように管理しているものの、サザエ殻をどう再利用するかについては、まだ堆肥など循環的な利用の例がないことを指摘しました。

    最後に、UNU-IAS OUIK研究員イヴォーン・ユーより、「能登の里山里海」が世界農業遺産として認定されたことを受け、里海の魅力を広く発信していくための「能登の里海ムーブメント」について紹介をしました。今後、漁業の観点以外にも、伝統漁法、お祭り、食文化、生物多様性、風景・景観などの視点から里海について発信し、年に4回能登地域でシリーズ講座を開催します。県外専門家、地域のエキスパート、地元の当事者も講座を通してそれぞれの里海に関わる活動を地域内外に発信して頂くことで、世界農業遺産の保全と活用に繋げていくことを目指します。

    本国際シンポジウムは、いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)の研究活動の一環として行われました。