渡辺陽子氏、フットワークを軽くして運は作るものと語る

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  • 2015年8月3日     東京

    2015年7月8日(水)、第7回UNU CAFÉ「渡辺陽子氏と語らう」が国連大学本部で開催されました。渡辺氏は、 国連開発計画ネパール事務所、モンゴル事務所、世界自然保護基金モンゴル事務所、アメリカ事務所の国際機関担当調整官を経て、現在は地球環境ファシリティにて、アジア地域マネージャーとジェンダー・社会的イシューマネジャーを兼任しています。

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    Photo: S. Tanaka/UNU-IAS

     

    地球環境問題に関するアジアの支援

    地球環境ファシリティ(Global Environment Facility, GEF)とは、ワシントンの世界銀行に設置されている独立した信託基金で、国連気候変動枠組条約、生物多様性条約、国連砂漠化対処条約、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約、水銀に関する水俣条約を含む、地球環境に関連した条約に基づき、発展途上国を支援しています。地球環境問題の取り組みを促進するため、約100名のスタッフが、生物多様性、気候変動、国際水域、土地劣化、持続的森林保全、化学物質の6分野とこれらの分野に総合的に取り組むプロジェクトを進めています。

    このGEFのアジア地域のリーダーとして、渡辺氏は現在、15人のスタッフを率いて任務に当たっています。また、新たに創設されたジェンダー・社会的イシューのリーダーも兼任し、男女平等・女性の権限の強化につながるようなプロジェクトを促進し、女性や先住民など、声が聞こえにくい市民に意識的に目を向けています。

    インターンの経験がつないだチャンス

    2歳から9歳までシンガポールとオーストリアで過ごした渡辺氏は、9歳のときに日本に帰国。ウイーンで自然に囲まれた暮らしをしていた一方で、東京のコンクリートジャングルのなかで違和感を覚え、開発がひきおこす環境問題に関心をもちました。その後、青山学院大学に進学し、国際開発学を学ぶなかで、交換留学生としてアメリカのオレゴン大学に渡り、環境学を学びます。そこでUNDPの日本人職員が特別講義に来た機会に、インターンの相談をしたところ、UNDPのニューヨーク本部で働く機会を得ます。さらにその後、奨学金を得てワシントンのアメリカン大学大学院国際開発学部に進学、環境学を学びます。その際にも、夏休みを利用し複数のUNDPの発展途上国の事務所にインターン希望のFAXを送り、UNDPネパール事務所で3ヶ月のインターンを経験します。現地でマラリアに感染したためにその年の外務省が支援している国連JPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)試験を受けられなかったものの、この翌年、25歳という若さでJPO合格を果たします。

    主張する力、適応する力、責任をもつ力

    UNDPネパール事務所に、改めて国連職員として派遣された渡辺氏は、さっそく環境プロジェクトの管理を任されます。大学院で学んだことを活かして、森林や野生生物保全のためにヒマラヤの現地に出向くことも喜んで挑戦。2年間の充実したネパールでの経験の後、UNDPモンゴル事務所に移動し、また環境保全の仕事に従事します。さらに、世界自然保護基金(WWF)に招かれ、WWFモンゴル事務所副所長に就任すると、プログラムの規模拡大、予算も3倍に。WWF本部に赴任するため、ワシントンに戻った頃には、大学院を修了してから6年が経っていました。また数年後、UNDPとWWFで、地球環境ファシリティ(GEF)と協力して活動を続けてきた経験から、GEFの空席時に声をかけられ、すぐに応募。2004年から、GEFでの生物多様性専門官としての仕事を開始しました。

    数々の国際的な環境信託基金のなかでも、GEFの基金は、無償資金としてイノベーションの促進に貢献しており、生物多様性の分野では最大規模。発展途上国支援の大きな力になっています。 2010年には、 名古屋で生物多様性条約の締約国会議が開かれ、SATOYAMAイニシアティブが発足し、渡辺氏もこの中心的なメンバーとして活躍。世界の里山や里海地域で、森林保全や絶滅危惧種の保全活動を進めています。このなかで渡辺氏は、「保全と共に、今後はいかに持続的な利用をしていくかが課題」と強調しました。

    これまで国際機関やNGOで働くなかで、渡辺氏が大事にしてきたこととして、「3つのA」が最後に紹介されました。(1)攻撃的にならないではっきり主張して行動を起こすこと(Assertive)(2)異なる国の文化や考え方を柔軟に受け入れ、適応すること(Adaptable)(3)この人に任せれば大丈夫と思ってもらえるような責任感をもつこと(Accountable)。この「3つのA」の大事さを、これから国際機関で働くことを目指す人にぜひ考えてもらいたいと渡辺氏は語りました。

    フットワークを軽くして、運は作るもの

    Photo: C Christophersen/UNU

    Photo: C Christophersen/UNU

     

    この日の司会を務めたUNU-IASの鈴木渉から、予算の規模が大きいことによるプレッシャーを感じることはないのかと尋ねられると、渡辺氏は、「金額の問題ではなく、発展途上国の相手側のニーズを把握してそれに合わせてやっていくことが大事」と答えました。

    また、参加者から国際機関で働き続けるモチベーションについて尋ねられると、「いろいろな国から違う文化をもった人たちから、自分とは全然違う考え方が出てきた時に面白いということが何年経ってもある。国際機関だからできることがたくさんある」と答え、「運は作っていくもの。一歩自分で進み出て求めることが大事。これは良い機会だと思ったときに、フットワークを軽くして進むこと」と加えました。

    また、プライベートに関する質問も多く上がり、自身が学生のときに、世界中に赴任する可能性のある国際機関の職員という仕事を続けるには、パートナーには「モバイルな」人を選んだ方がいいとアドバイスされた経験や、現在も実際に夫婦の間で出張スケジュールを調整して、2人のお子さんの育児に当たっているエピソードなどを披露しました。

    Photo: C. Christophersen/UNU

    Photo: C. Christophersen/UNU

     

    現役の国際職員として多忙を極める渡辺氏ですが、その肩肘を張らない柔軟さが学生たちを後押しし、その後も質問を待つ長い列が続きました。

     

    渡辺陽子氏のキャリアパス

    2歳から9歳までシンガポールとオーストリアで過ごす
    青山学院大学国際政治学部卒業
    交換留学生としてオレゴン大学に留学
    UNDPニューヨーク本部でインターンの経験をする
    アメリカン大学大学院国際開発学部に進学
    UNDPネパール事務所でインターンの経験をする
    大学院修了後、JPO試験に合格。UNDPネパール事務所・モンゴル事務所で環境担当官を務める
    WWFモンゴル事務所で副所長、アメリカ事務所で国際機関担当調整官を歴任
    2004年より地球環境ファシリティに勤める。現在は上席生物多様性専門官として、アジア地域マネージャーとジェンダー・社会イシューマネジャーを兼任。